夢こうろ染(3) 〜染められないものはない~

夢こうろ染

紅葉真っ盛りの京都・嵐山。渡月橋のそばに佇む祐斎亭。 染色作家、奥田祐斎先生と鞄工房山本の工房主、山本一彦、常務の山本加代子の三人が祐斎亭のギャラリーに集った。ジャズの流れるかっこいい空間には、先生の作品が飾られている。もちろん、光の具合で色の違いが起きるような工夫もされている。そこで、工房主がこう話した。 「染めの歴史や考え方を、長男の縁もあって色々と教えてくれたんです。その時に真珠や石等も染めた、と仰ったんです。ならば、革も染められるかお聞きしたところ、できるという事でお願いしました。」 それが、鞄工房山本にとっても特徴的なランドセルづくりの始まりとなった訳である。 その後は、どんどん進んでいった。まず、兵庫の皮加工会社・新喜皮革と共に三者で小さな革を染める作業に取り組んだ。 奥田先生は振り返ってこう言った。「布は絹なので染料との相性がいいんです。革の場合はウールを圧縮したように繊維の密度が濃い。だから染料の入って行く具合が違うんです。そこの調整は考えましたね。」 ただ、自然の素材という意味では「近い」素材なのだという。仕上がりの状態をイメージし、浸透しづらい革へと手作業で何度も染料を塗っては乾かしを繰り返して作り上げたのだそうだ。 夢こうろ染 そうして試作の「夢こうろ染」を用いた革が出来上がった。 「見ていてきれいだなぁ、と最初は思っていたんです。でも、眺めているだけではだめだ、何かつくろう、と思って、ランドセルのかぶせにある淵に使ったらどうだろうかと思い、すぐに取り組んだのです。」と、いてもたってもいられなくなった工房主。 最良のものをつくる人間達は、あっという間に芸術品と言える程のものをつくり上げてしまうのであろう。芸術的な革を見て、完成形をすぐにイメージできた工房主。工房主と常務の間でも、仕上がりのイメージを事細かに話す必要は無かったという。最高の革であるコードバンと夢こうろ染という組合せだ。 奥田先生の元にできたランドセルを工房主が持参したのが、2013年の4月。世界にひとつだけ、初めてのランドセルのお披露目である。 「うまくやってくれたよねぇ」奥田先生が夢こうろ染を使ったランドセルを初めて見た時の感想であった。色の変化を楽しめる、それもすべてが一度に色が変わるのではなく、比較が楽しめるようにつくられた事に感心したそうだ。 それぞれが最高のものをつくる。その積み重ねでより最高のものができる、という事なのである。  

このページをシェアする

関連記事